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新潟家庭裁判所柏崎支部 昭和44年(家イ)3号 審判

国籍 韓国 住所 新潟県柏崎市

申立人 若林美知江こと劉美知江(仮名)

国籍 韓国 住所 新潟県柏崎市

相手方 劉国守(仮名)

主文

申立人と相手方との婚姻を取消す。

理由

(一)  申立人は、主文同旨の審判を求め、その理由としておおむね以下のとおり述べる。

申立人は、本籍新潟県柏崎市○○父立野治作、母さくの長女として、大正一〇年二月二三日出生した日本人であつたが、昭和二三年六月二五日韓国人である相手方との婚姻届出をなし、その結果、日本国籍を喪失した。ところが、このたび、相手方は、韓国人慶玉鎖と一九三八年(昭和一三年)一一月二八日婚姻してその届出を済ませていることおよび申立人は韓国籍に入籍されておらず、日本国籍から除籍されたままであることを知つた。従つて、申立人と相手方との婚姻は重婚となるのでその取消を求める。

(二)  本件について、昭和四四年三月一八日の調停委員会による調停で、当事者間において主文同旨の合意が成立し、その理由となる事実についても争いがなかつた。

(三)  当裁判所は、本件記録添付の筆頭者立野長一郎の除籍抄本、劉美知江の登録済証明書、筆頭者劉国守の韓国戸籍謄本ならびに申立人および相手方に対する各審問の結果等によつて調査し、次の各事業を認める。

申立人は、立野治作、母さくの長女として大正一〇年二月二三日出生し、本籍を新潟県柏崎市○○に有していたもと日本人で、昭和一一年八月一七日ごろ相手方と事実上婚姻し、長男正治(昭和一二年一一月二日生)長女志津子(昭和一五年一一月一三日生)および二女洋子(昭和一八年一月二日生)を儲けた。そこで、子供らの将来のために、婚姻届をした方が良いと考えて相手方に話したところ、相手方において入籍できないという返事であつた。しかし、朝鮮総連の人とも相談して、やつと、昭和二三年六月二五日、その届出を済ませ、その結果、上記戸籍から除籍されて日本国籍を喪失し、外国人登録法上韓国人として登録されたものである。しかして、相手方は、慶玉鎮と婚姻し、昭和一三年一一月二八日その届がなされている。

(四)  以上の事実によると、申立人と相手方との婚姻(以下、本件婚姻という。)は重婚となる。

ところで、本件婚姻の効力は、法例第一三条第一項本文によつて各当事者の本国法に準拠するのであるが、先ず申立人についてみるとその本国法である日本国民法第七四四条によると、重婚は取消原因である。次に、相手方についてみると、韓国がその本国である。しかし、その準拠法については、大韓民国法(法律第四七一号、以下大韓民国民法という。)によるべきか、慣習法によるべきか問題がある。即ち、大韓民国民法は、同法第八一六条第一号によりこれを取消事由としている。しかし、同法の施行は、一九六〇年(昭和三五年)一月一日(同法附則第二八条)で、それ以前に成立した婚姻の効力について、時際法として、同法附則第二条は、既に旧法によつて生じた効力に影響を及ぼさない旨規定している。そして、韓国民法施行前は、婚姻の効力については慣習法によるものと解されているところ、慣習法によれば重婚の場合、後婚は無効とされていた。ところが、一方、同法附則第一八条では、本法施行日前の婚姻又は養子縁組に本法により無効の原因となる事由があるときはこれを無効とし、取消の原因となる事由があるときは本法の規定によりこれを取消すことができる旨規定している。そして、大韓民国民法はこれを取消事由だとした(第八一六条第一号)。そこで、韓国民法施行前に成立した重婚について、附則第二条の不遡及の原則に従い、慣習法によつて無効とするか、附則第一八条に従い韓国民法第八一六条第一号によつて取消事由とするか、従来争いがあつた(前者の立場に立つものとして、秋田家庭裁判所湯沢支部昭和三五年二月一三日審判、宇都宮家庭裁判所栃木支部昭和三三年八月二一日審判家裁月報一〇巻一二号八〇頁、東京家庭裁判所昭和三六年四月一日審判家裁月報一三巻八号一一一頁、津家庭裁判所伊勢支部昭和三八年一二月三日審判家裁月報一六巻一号一五五頁、後者の立場に立つものとして、東京地方裁判所昭和三六年九月七日判決後記民事甲第二九三六号の事件東京家庭裁判所昭和三五年七月二一日審判家裁月報一二巻一〇号一五四頁、大阪地方裁判所昭和四三年三月三〇日判決、判例時報五三〇号六四頁。なお法務省当局は、昭和三五年五月一〇日民事甲第一〇五九号、昭和三六年一一月二四日民事甲第二九三六号、昭和三七年八月一〇日民事甲第二三〇〇号各民事局長回答にみるとおり、一貫して無効説に立つている。しかして裁判所の確定した裁判を事実上無視するような職権による戸籍訂正をすべきだとするやり方は、不当だと言わざるを得ない。)

当裁判所は、これについて、取消事由にあたるものと考える。けだし、附則第二条と同第一八条のいずれが適用されると解するかによつて結論を異にするのであるが、その規定の仕方から考えると、附則第二条は一般の場合について、同第一八条は特別な場合についてそれぞれ規定しており、婚姻の効力に関しては、特別規定である第一八条が一般規定である第二条に優先して適用されるものと解するのが相当である。即ち附則第一八条によつて、従前慣習上無効とされたものを、新らたに大韓民国民法の施行の時点から同法によつて、取消し得るものとしたとみるべきである。もし、上記のように解さないとすると、換言すれば、無効説によれば、附則第一八条は、大韓民国民法施行前無効または取消事由とされたものは、施行後は、慣習としてでなく大韓民国民法によつて無効または取消されることを確認するに過ぎないこととなつてしまうが、それでは、わざわざ附則で経過規定を設けた意味がないものといわざるをえない。

従つて、韓国民法施行前の重婚たる後婚は、施行後は取消事由にあたるものと解する。そうだとすると、本件婚姻は、日本国民法および大韓民国民法いずれでも取消事由にあたることとなる。

(五)  以上のとおりであるから、当裁判所は、前記合意を相当と認め、調停委員柴野辰之助、同竹田ムツの各意見を聴き、家事審判法第二三条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 萩原昌三郎)

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